『松井秀喜の「ヒトのチカラ」の引き出し方』
~松井秀喜×ヒトトヒト社員 座談会~
第1章
「自分がコントロールできることだけに集中する」
松井秀喜が語る、自分のチカラの引き出し方
ヒトトヒトの「ヒトのチカラ アンバサダー」として就任した松井秀喜さんが、自身の経験をもとに「ヒトのチカラを引き出す」ことの本質を語りました。本社を訪れ、社員の皆さんの前で語られたその言葉には、日々の仕事に活かせる視点や、周囲との関わり方のヒントが詰まっています。聞き手は、元·日本テレビアナウンサー·上田まりえさん。ブレない価値観とともに語られる深い対話をお届けします。第一章では、「自分のチカラ」の引き出し方について掘り下げていきます。
チームの信頼を得るために意識していたこと
―――現役時代はどうでしたか?
松井:現役時代は、一人のプロ野球選手としてグラウンドで結果を出すことが求められていました。それがそのまま、チームのためになるという考え方でした。もちろん、「自分が打てばいい」「いいプレーをすればいい」という意識も間違ってはいません。でも、それだけではなく、チームメイトから信頼も得なければいけない。
アメリカでは、「いい選手はロッカールームでも慕われるし、敬意を払われる」と、よく言われるんです。
―――ロッカールームでは、どんな振る舞いが信頼される選手なんでしょうか。また、チームメイトから信頼を得るために意識していたことはありましたか?
松井:常に周囲に気を配ることですね。それと、アメリカではロッカールームにメディアが入ってきて、取材対応もすべてそこで行われます。誠実にメディア対応をしていることが、ロッカールームでの評価にもつながるんです。
また、野球選手はプレーにその人の思考や性格が結構出るんです。たとえば、明らかなボール球にホームラン狙いで打ちにいったり、「そこはフォアボールだろ」っていう場面でも、欲を出して無理に振りにいっちゃうとか。そういうちょっとした行動に、その選手の思考が表れるんですよね。
だからこそ、そういう姿勢がプレーに出ないように、最初はすごく意識していました。チームに点を入れるためには、自分は何をすべきか、それをすごく考えていました。
―――野球選手としては、個人としての結果も求められる中で、チームとしてそのバランスが本当に難しいんだろうなと感じます。
松井:そうですね。チームメイトとして近くにいると、お互いのことがだんだん見えてくるので、ちゃんと「見られている」という意識は持っておくべきだと思います。自分の結果だけを追い求めすぎると、その姿勢はプレーぶりを通じて、チームメイトにも伝わってしまうと思います。最も大切なのはチームとして勝つことですから。
選手時代とビジネスでの人間関係の違い
―――引退されてからも、解説や野球教室、ヤンキースでの顧問など、さまざまなアドバイザーの立場を経験されています。ビジネスの現場では、選手時代とはまた違ったチカラが求められると思いますが、ヒトとの関わり方などに違いは感じますか?
松井:まず、教える立場になったこと自体が、大きな変化ですよね。ビジネスの現場に直接出ることは少ないですが、OBとしての役割が求められる場面はあります。たとえば、ヤンキースタジアムの試合に行って、スポンサーの方々と歓談したり。OBとして、最も大事なのは、「相手に気持ちよく帰ってもらうこと」。そのために、自分がコントロールできることに集中しています。たとえば、常に笑顔を忘れず、丁寧な対応を心がける。サインを頼まれれば快く応じ、写真も笑顔で一緒に撮る。そうした“ちょっとした心配り”の積み重ねが、相手の満足につながると信じています。ヤンキースの人間としてその場にいるわけですからね。そこは、野球のプレーとはまた違う部分ですね。
「特別な日」にこそ、変えないことを意識する
―――ここからは、実際に現場で働くヒトトヒトの社員の皆さんからの質問を、松井さんにお聞きしていきます。
最初の質問は、人事総務部の白井さんからです。「得点のチャンスの打席や優勝決定戦など、大事な試合でパフォーマンスを最大限に発揮するために、普段どんなことを心がけていますか?」
松井:あえて心がけるとしたら、「何も変えないこと」ですかね。
―――変えない?ちょっと一段ギアが上がったりはしないんですか?「よし、頑張ろう」みたいな気持ちに。
松井:それは、自分ではコントロールできない感情でしょう。たとえば、「今日は大事な試合」という状況は、自分で決められないものです。もし大事な試合だけ特別な準備をして、普段はなぜ準備しないの?という話になりますよね。
野球は年間で百何十試合とあって、その全てが大事な試合なんです。つまり、結果的に大事な試合がやってくるだけで、そこに向けて特別なことをする必要はない。
それともうひとつは、「コントロールできることだけに集中する」という考え方も、すごく大切です。たとえ完璧に準備しても、相手ピッチャーが絶好調だったら打てないこともある。試合のどんな場面で自分に打席が回ってくるかも、自分では選べない。だからこそ、準備や気持ちの持ち方など、自分がコントロールできることに意識を向ける。
プレーオフに入ると、ファンも盛り上がるし、メディアもたくさん来ます。空気感は違っても、準備や感情のレベルは、普段と変えない。
もちろん、「特別な準備」で結果を出せる人もいると思います。だから、それは人それぞれ、自分に合わせればいい。でも、自分の場合は、変えずにやったというだけです。
―――自分をコントロールするということですね。自分がどういうときに結果を出せているか、分析してみるといいかもしれませんね。
「調子が悪い自分」も楽しむ
―――人材派遣事業部の鎌田さんからの質問です。「嫌になる瞬間や『きょうはやりたくない』という日のモチベーションの上げ方や、ルーティンがあれば教えてください」。
松井:ありますよね、そういう日。体調が良くない日とか、それでも試合は出なくちゃいけないとき。私はそういうときでも、準備は変えません。調子が悪いからといって、必ず悪い結果が出るとは限らないんです。野球の場合、確率が下がるだけで、調子が悪くてもいいプレーが出来ることもある。だから、“確率が悪い自分に賭けてみる”のを楽しむんです。
「どうせダメだ」と思うより、「いや確率が悪いかもしれないけど、分かんないじゃん」って、その自分を楽しむようにしていました。実際はダメなことも多いですけどね。でも、たまにそれで打てるときもある。
準備はいつも通りにして、でも思考はちょっと変える。それが、自分なりに気持ちを立て直す方法だったと思います。
―――松井さんは、調子が悪いときや、疲れているときって、自分を甘やかしてしまうことってないんですか?
松井:自分を甘やかす……。トレーニングしてちゃんとやった後に、おいしい食事を楽しむというのはあります。でも、本当の意味でのご褒美は、「今日はいい一日だった」と自分で思えることですね。それは、「勝った・負けた」とか、自分が「活躍した・しなかった」という単純なことではない。チームが勝っても自分はダメだったり、その逆もある。いろんな状況があるので、結局は「自分が納得できるかどうか」なんです。
ただ、毎日試合があるので、一喜一憂しないということは、かなり気を付けていました。自分の中で一日のルーティンを決めていて、それを結果に関係なく繰り返す。
試合前の準備から試合後の振り返り、そして明日につなげること。それを習慣化して、打てた日も打てなかった日も、感情は上下するけれど、なるべく表には出さないようにしていました。
第2章
松井秀喜流 相手のチカラを引き出す指導論「期待していることを明確に伝える」
ヒトトヒトの「ヒトのチカラ アンバサダー」として就任した松井秀喜さんが、自身の経験をもとに「ヒトのチカラを引き出す」ことの本質を語りました。本社を訪れ、社員の皆さんの前で語られたその言葉には、日々の仕事に活かせる視点や、周囲との関わり方のヒントが詰まっています。聞き手は、元・日本テレビアナウンサー・上田まりえさん。ブレない価値観から導き出された深く実践的な言葉をお届けします。第二章では、「相手のチカラ」の引き出しかたについて掘り下げていきます。
長嶋茂雄という“師”との時間
―――ジャイアンツ時代を振り返って、「このヒトのチカラは大きかったな」と思う方はい
らっしゃいますか?
松井:一番はやっぱり長嶋さんですよね。自分が本当にラッキーだったと思うのは、長嶋さんに二人きりで素振りを見てもらったことですね。その時間はとても貴重で、自分自身の成長を大きく促してくれました。「自分でバッティングを作る」という基礎、土台を築いてくれた方です。やっぱり特別な存在ですね。
長嶋さんは大スターですから。ファンの前に立つ長嶋さんと、二人きりのときの長嶋さんは少し違うんです。ファンの前では、皆さんが知っている“にこにこした長嶋さん”。サービス精神も旺盛でスターとして完璧に振る舞っている姿が印象的でした。でも、二人きりのときは、野球に対して非常に厳しかったです。練習に一切妥協がない。いい練習ができるまで終わらない。たとえば素振りひとつでも、いいスイングができるまで終わらなかったです。長時間ではないですが、たとえ30分でも一本一本を全力で振ると、それだけでかなりきついんです。
あと長嶋さんに言われたのは、「ジャイアンツの中心選手は、試合を休んじゃだめだ」、「お客さんが来ている以上、絶対に出ろ」と。自分も若い頃から休むつもりはなかったですが、実際、一切休ませてもらえなかったですね。
「おまえのことは試合で使い続ける」ヤンキース時代を支えた、もうひとりの“師”
―――そういう“師”と言えるような人に出会えることって、本当に貴重ですよね。その後、メジャーという異なる文化や厳しい環境に移られたわけですが、そんなヤンキース時代も「ヒトのチカラ」を感じた瞬間がありましたか?
松井:ヤンキースに行っても基本的な考え方は、日本と変わらなかったですね。ジャイアンツでの10年の経験を生かして、野球に集中するよう心がけていました。もちろん文化や言語の違いはあるし、戸惑うこともたくさんありましたが、なるべく野球のことだけに集中していました。
これも同じく監督の立場になりますが、ヤンキース時代、ジョー・トーリという監督がいたんですけど、私が入って最初の2カ月くらい調子が良くなかったんです。でも、彼はすごく気に掛けてくれて。普通に挨拶したときに、「調子はどう?」と聞いてきて、私が「大丈夫、いいよ」と答えると、彼からは「良くないだろう」と言われたんです。
そのとき、バッティングのちょっとしたアドバイスをくれたり、「今は打てていないけど、おまえのことは試合で使い続ける」と言ってくれて。私は守備がうまいわけではなかったんですが、「守備を評価している。打てなくても使い続けるから、頑張れ」と言ってくれた。
そのとき、心が晴れやかになったのを覚えています。その試合で4安打して、ホームランも打ったんですよ。偶然ですけどね(笑)。でも、そこから少しずつ結果が出始めました。
ちゃんと見ていてくれたというか、私が抱えていたもやもや感に気付いてくれた。そして、アドバイスをいただいて、たまたま運良く結果が出始めた。彼には本当に感謝しています。
若手を導くために必要な“問いかけ”の姿勢
―――松井さんご自身がコーチやアドバイザーとして、選手への声掛けで意識していることはありますか?
松井:まず、選手の状態や気分を把握すること。それができないと適切なアドバイスはできません。その上で、どう心を開いてもらうかを意識します。自分の意見を押し付けすぎず、「自分はこう思うけど、どう思う?」と問いかけるようにしています。野球と一緒で、キャッチボールのような感覚ですね。
今の選手は一方的に言われても聞いてくれません。情報が多い時代ですから。
YouTubeを見てバッティングを学ぶ選手もいます。
だからこそ、自分で「これだ」と決めている選手にアドバイスするのは難しいんです。まずは「何を意識しているのか」をしっかり聞く。そして、それが良いことなら「それはいいね」と伝える。でも、違うと思ったときには「自分はこう思うけど、最後は自分で決めてね」と伝えて、強制はしません。プロ野球選手は一人のプロなので、最終的な判断と責任は本人にありますから。
プロとしての心構えと「ヒトのチカラ」を引き出す方法
―――様々な環境でたくさんの方たちと関わってこられた中で、「ヒトのチカラ」を引き出す上で大切なことって、何だと思いますか?
松井:やっぱり人には感情があるし、気持ちに左右される部分がありますよね。だからこそ、スタート地点として「意欲を持ってもらえるか」、「前向きな気持ちになってもらえるか」が、とても大切だと思います。
そのためには「期待している」と伝えること。人って、期待されないと力が出ないものですよね。ただ、「期待している」って言っても、それだけでは不十分で、「何を期待しているのか」を具体的に伝えることが必要です。たとえば、「こんな形になれば最高だね」、「最低でもこのぐらいはしてほしい」など、ある程度の範囲を示して、期待していることや、こうしてほしいという内容を明確に伝える。そのうえで、改善すべき部分があればアドバイスを送る、そんなイメージです。
―――本人としても、駄目なところばかりに目がいきがちですしね。良い部分は求め続けたらきりがないけど、最低ラインを伝えるというのは、とても良いなと思いました。
年上の人との関係づくりのコツ
―――では、ここで、ヒトトヒトの皆さんからの質問に答えていただければと思います。
ビルサービス2部の桑野さんから。「年齢が離れている勤務員さんと良好な関係を築きたいのですが、何かコツがあれば教えてください」という質問です。
松井:年上の方という意味ですよね?「この人、頑固そうだな」「怖そうだな」と思う人には、ちょっと笑顔を増やして、柔らかく接するようにすると思います。でも、自分の場合は、特別に機嫌を取ろうとは思わなかったですね。
でも、どうしても関わらざるを得ない人っていると思うんです。そういう場合は、なるべく機嫌よく接する努力はしたかもしれません。たとえば、自分は、コミュニケーションを積極的に取るというタイプでは無いのですが、「今日はどうですか」とか、自分から質問を投げかけたりはしていたと思います。
―――確かに、ちょっと笑顔を増やすだけでも、変わるかもしれませんよね。
松井:それでも相手が変わらなかったら、それはもう仕方ない。自分でコントロールできないことですから。
プレッシャーの中で力を発揮するために
―――次に、エース警備保障の村岡さんからいただいた質問です。
「プレッシャーがかかる場面で、自分やチームの力を最大限に発揮するために大切にしていたことは何ですか?」
松井:チームと言えども、チームメイトのプレーぶりまでは自分がどうこうできるわけではありませんよね。でも、チームとしてプレーする中で、自分が大事な場面で打席に立つ機会は多くありました。そこで大切なのは、「何に集中するか」ということ。
そういう場面では自然とスタンドからの声援など、いろんなプレッシャーを感じますし、感情の揺れ動きはもちろんあります。でも、「自分は今、何に集中すべきか」ということを、普段からトレーニングしていないと、いざその状況で浮き足立ってしまって、いいパフォーマンスを出せません。
たとえば、「このピッチャーに対して、自分は今コレをすべき」という戦略があります。その戦略に意識を向け、自分の集中すべきことに集中して、自分でコントロールできない周囲のことをどれだけ排除できるか。それが、普段からのトレーニングで意識していることだと思いますね。その姿勢は、チームメイトにも伝わると思いますし。
―――ついつい、あれもこれもやってみたくなったり、必要なことだけに絞るのが難しいですよね。
松井:そうなんです。そういうときこそ、結果を恐れてしまい、「ここで打てなかったらどうしよう」と、考えがちです。でも、結果は結果で、受け入れるしかないんですよね。
合わない相手との“適切な距離”の保ち方
―――続いて、財務経理部の長尾さんからの質問です。「あまり気の合わない方と一緒に仕事をする際、何か心がけていることはありますか?」
松井:自分の中で“ラインを引く”ことですね。気持ちの中で「ここまでは許容するけど、それ以上は入ってこないで」という線引きです。自分なりに相手との距離を意識して、会話や接し方の中でのラインを引くような気がします。
たまに必要以上に入ってくる人、いますよね。そういう人には、「それ以上は来ないでください」という意思を示します。嫌われるかもしれないけど、私の場合はそれをいとわないタイプなので。これはアドバイスになるかどうか分かりませんが、そのほうが自分としては心地いいんです。
だから「このラインでうまくやっていきましょう」というスタンスを取る事が多いです。
第3章
松井秀喜が語る「AI時代にヒトに求められるチカラとは?
ヒトトヒトの「ヒトのチカラ アンバサダー」として就任した松井秀喜さんが、自身の経験をもとに「ヒトのチカラを引き出す」ことの本質を語りました。本社を訪れ、社員の皆さんの前で語られたその言葉には、日々の仕事に活かせる視点や、周囲との関わり方のヒントが詰まっています。聞き手は、元·日本テレビアナウンサー·上田まりえさん。ブレない価値観から導き出された深く実践的な言葉をお届けします。第3章では、今後「ヒトに求められるチカラ」について掘り下げていきます。
ヒトトヒト社員に期待すること
―――松井さんがアンバサダーとして、ヒトトヒト社員の皆さんにこれから期待することを教えて下さい。
松井:もちろん、皆さんが持っておられる能力を最大限に発揮していただくことが一番大切なことかと思います。まさしく社名のとおり、「たくさんの人に喜んでもらうことが自分の喜び」それに尽きるような気がしますね。
私自身も野球選手として、「松井がチームメイトで良かったな」「今日、ここで打ってくれてありがとう」と、言っていただけることがありました。その言葉や、ファンの方が喜んでくれる姿を見ることが、一番の喜びでした。だからやっぱり「人のためにチカラを尽くすこと」、そこに尽きるのかなと思います。
感情を分かち合えるのは、人間だけ
―――まさに今、AIやテクノロジーがどんどん発展していく中で、ヒトに求められる役割って、どういった部分だと思いますか?
松井:人間にしかないものは感情。人の心を豊かにし、温かくし、喜びをもたらす――そうした感情のやりとりは、AIにもある程度できるかもしれないけれど、人間同士だからこそ生まれる感情のレベルってあると思うんです。
そういう意味で、人間同士が感情を共有できる関係性こそが、大切なんじゃないかと感じます。
たとえば、イベントの会場など、いろんな場所でそれぞれのお仕事をされている皆さんにとって、ヒトとの関わり方がすごく大切だと思います。もちろん、それは一筋縄ではいかない部分もあると思いますが、「お客さんに喜んでもらいたい」っていう気持ちは、皆さんきっと持っているはずです。
すべてのお客さんに喜んで帰ってもらうのは、なかなか難しいことかもしれません。でも、そこが皆さんのチカラや武器でもあって、「今日、いい一日だったな」「ここに来て良かったな」と感じて帰ってもらえるお客さんが、一人でも多くなること――それが皆さんの喜びや特権でもあると思います。そういう仕事って、気持ちいいですよね。
特にスポーツやコンサートに来るお客さんは、非日常を感じたくて来ていると思うんですよ。だから、その非日常を素晴らしいものとして感じてもらいたいし、その一部を担っているのが、まさに皆さんだと思います。
アンバサダーとしてやってみたいこと
―――「ヒトのチカラ アンバサダー」として、やってみたいことがあれば、教えてください。
松井:自分も一度、皆さんと同じ仕事をしてみましょうかね。さすがに……それは無理か。いきなり切符売り場にいたら、びっくりされますよね。でも、あの制服着ていたら、逆に誰にも気づかれなかったりして、それはそれで面白いですよね。「あの警備員、でけぇな」とか思われるかもしれない。
―――そうですね。でも、松井さんが現場で警備されていたら、体も大きいし、迫力ありますよね。「ちゃんとルール守ろう」って思えそうです。
松井:そう、皆さんの現場に潜り込んでみたい。簡単に「潜り込む」って、やっぱり難しいかもしれませんが・・・。やれるかどうかは別として、そういう現場にはすごく興味があります。球場ではファンのヤジはいつも聞いていましたけど、ファンの目の前で聞いてみたいですよね。「ああ、こんなふうに言ってるんだ」って感じるのは、面白そうですよね。
若い世代への期待と伝え方
―――ここからは、松井さんへ社員の皆さんからいただいた質問です。
ビルサービス2部、福田さんから、「これから会社の中枢を担っていく若い世代に社を盛り上げてもらえるようアドバイスするとしたら、どんなことを伝えますか。」という質問です。
松井:前の話と重なる部分もあるかもしれませんが、「いかに期待しているか、をしっかり伝えること」が大切だと思います。野球では特にそうですが、ある程度その人の能力は把握できます。その能力を最大限に引き出すために、気持ちの持っていき方が大事なんです。そして、「期待しているよ」ということを明確に伝える。自分自身でも期待されるとすごくうれしかったですし。だから日本にいるときは、一番期待されるポジションだから、常に4番を打ちたいと思っていました。
これから中核を担っていく皆さんにも、「4番を期待しているよ」「エースを期待しているよ」「扇の要のキャッチャーを期待してるよ」と、具体的に伝えた方が良いと思います。ただし、プレッシャーにならない程度に。
―――確かに、それがプレッシャーになるかどうかの見極めは重要ですね。
松井:そこは、普段の接し方から感じ取ることです。そのために何が必要か、アドバイスがあるならした方がいいし、本人が何を感じているのかを聞くことも大事です。野球と同じでキャッチボールのようなやりとりがあるといいですね。
もし野球選手じゃなかったら?
―――人材派遣事業部の山本さんからの質問です。「野球選手以外で興味のあった職業、やってみたかった職業はありますか?」
松井:これはいい質問ですね。ちょっと考えなくちゃいけないですが・・・。
子どものころの夢は野球選手でした。田舎だったので、たとえばチームでキャプテンを務めて4番を打っていたとしても、「全国にはもっといい選手がいっぱいいるよな」という思いは、高校に入ってからもずっと持っていました。でも、それが実際に「なれるかも」と思ったのは高校3年生くらいからですね。
一つ覚えているのは、実家が小松空港のすぐ近くで、いつも実家の上を飛行機が飛んでいたんですよ。すごくうるさかったんですけど、近くには基地もあったので、パイロットにはちょっと憧れていました。小さい頃にいつも飛行機を見ながら操縦してみたいなっていうのは、思っていました。でも、じゃあそれに向けて何か努力したかというと、ゼロですけどね。
他にやってみたかったこととなると、何だろう……正直、スポーツ以外の道は、本当に思い付かないですね。そういう意味では、子どものときに思っていた夢が、そのまま現実になったのは、本当にラッキーというか、幸せなことだなと思います。
―――夢を現実にできる方だったからこそ、ここまでの活躍をされたんだなと、あらためて思いました。
努力とは何か
―――東北支店の久保田さんからの質問です。「努力をしていく中で、また継続して何かを行っていく中で、ご自身が大切にしていたことがあれば教えてください。」
松井:これは、答えになっているか分からないんですけど、人から見たら「努力してるな」って思われるかもしれないけれど、自分の中では努力しているという意識はあまりないんです。
たとえば、試合で打つためには、ちゃんと準備しなくちゃいけない、と思って練習をします。それが人から見たら「結構努力しているな」って思われても、自分の中では「練習することが全然苦じゃない」、「当たり前のことをやっているだけ」という感覚になっているときが、一番いいなと思いますね。
努力するって大変だからこそ「努力してるな」と感じると、ちょっと重いじゃないですか。たとえば、素振りやトレーニングは、体力的にはきついかもしれないけど、特別なことをしている、という感覚ではない自分自身でいたいと、意識していたような気がします。
―――「努力を努力だと思わないように」、努力するということですね。
松井:禅問答みたいになってきましたね。
「失敗」との向き合い方と次への思考
―――次の質問は大阪支店の井上さんからです。「野球における挫折や経験を通して学ばれたことの中で、現在の生活に役立っていることがあれば教えてください」。
松井:野球って、特にバッターは「打てないこと」が多いんです。3割打てれば一流といわれますが、実際3割打てる人ってごくわずかで、つまり、7割くらいは失敗する。野球は、毎日失敗と向き合いながら、「次にどうするか」を考えるスポーツなんです。常に100%の結果はない。たぶん、どのスポーツでも共通していることだと思いますが。だからこそ、うまくいかなかったことと、どう向き合うかという視点は、今の生活でも変わっていないですね。
―――日常生活の中で何か問題に直面したときも、その思考回路を持っているんですか?
松井:そうですね。「次に同じ場面が来たらどうしようか」と考えることはあります。ただ、相手が人だと正解がひとつじゃないから難しいですけどね。
家庭でもよくあるじゃないですか。たとえば、「前に注意されたから、次は気をつけよう」と思っても、結局また同じようなことを繰り返して、怒られてしまったり。でも、それも一つの「データ」だと思っていて、失敗をただ失敗で終わらせない、というか。
野球も一緒で、「このピッチャーのこの球に、こう反応して打てなかった。でも次に同じ球が来たら、こうやって打とう」とか。そうやって次につなげる思考は、今でも日常の中に残っています。
―――確かに。仕事にも家族や友人との関係にも応用できますね。うまくいかなくても、「次にどうするか」という思考を持つことが大切なんですね。
感情をまわりと共有していくチカラ
―――これから「ヒトのチカラ アンバサダー」を務められる松井さんから、本日、社員の皆さんと触れ合って感じたことをお聞かせください。また、最後に社員の皆さまへメッセージをお願いします。
松井:皆さんが真剣に聞いてくださるような話ができるかどうか、実は少し不安でしたが、皆さんとお会いして、「会社を良くしていきたい」「頑張っていきたい」という「意欲」が目力を通してしっかり伝わってきました。これからお互いに刺激し合って、会社が良い方向へ成長していってほしいですし、自分自身も真剣に向き合わなければと思いました。
社員の皆さん一人ひとりの「チカラ」が、ご自身だけでなく、お客さんにも喜んでもらえる形となり、結果として、皆さんもお客さんも、みんながハッピーになれる――そんな会社になってほしいと思っています。
そのためにも、自分の能力を高めていくことはもちろん、「ヒトとしてのチカラ」、つまり「思考や感情をまわりと前向きに共有していくチカラ」を、これから大切にしていただきたいです。それが会社のさらなる成長につながっていくと信じています。私もアンバサダーとして、皆さんと一緒に頑張っていきます。
―――力強く温かいメッセージをありがとうございました。社員の皆さんへのアドバイス、そしてご自身の経験から培ったたくさんの「ヒトのチカラ」の引き出し方を聞かせてくださいました。本当にありがとうございました。
チームメイトから、アンバサダーへ
―――はじめに、このたび「ヒトのチカラ アンバサダー」に就任された経緯を教えてください。
松井秀喜氏(以下、松井):もともとヒトトヒトとはご縁があって、社長とは高校時代からの野球部のチームメイトだったんです。そういうつながりもありましたし、今、会社が上場を目指す中で「ぜひアンバサダーになってほしい」と直接依頼がありました。
社長からは、「自分が野球で培ってきた経験、また野球というチームスポーツで人とのつながりの中から成長してきた経験を会社に共有してほしい」、と言われ、自分も一緒に頑張ろうという気持ちで就任を決めました。
人間同士ですから、感情もあるし顔を合わせて接することで通じ合う部分があると思います。機械やロボットとは違う、人間らしいつながりがある。ヒトトヒトがその点を大切にされていると聞いて、私自身とても共感しました。
気を遣わない関係が生んだ一体感
―――高校時代のヒトとの関わり方では、今と違う部分はありましたか?また、キャプテンとして心掛けていたことは?
松井:高校時代は、年も近い仲間たちと未熟ながら何でも言い合って、チームを強くしていくという感じでした。
当時キャプテンをしていた頃は、自分がいいプレーをして、「みんな、ついて来い!」っていうような、ちょっと傲慢なところもあったと思います。言葉で口うるさく言うタイプではなかったですし。今振り返ると、人の心をつかむという点では、まだまだ未熟な時期だったと思います。
まだ10代だったので、みんなで盛り上げて、元気を出そうっていう、すごくシンプルな考え方でした。それが自然とチームを盛り上げて、一つの形ができてくる、ということもありました。また、当時は今とは時代が全然違います。今みたいにお互いに気を遣うような関係ではなかったですし、指導者も含めて相手の気持ちをおもんぱかるという意識は、まだ十分には持てていなかったと思います。
甲子園という夢の舞台と、支え合う仲間たち
―――高校野球といえば、甲子園。まさに「ヒトのチカラ」を感じるような空間だと思いますが、甲子園やそのチームという場では、どういうところで「ヒトのチカラ」を感じましたか?
松井:高校生にとって甲子園は夢の舞台で、その場所を目指して毎日練習していたので、まずその舞台に立てる喜びがありました。あとは、それを支えてくれた家族への感謝の気持ちも強かったです。みんなのサポートがあってこそ、今ここに立てているという思いがありました。
そして、プロでの甲子園と、高校野球の甲子
園って、全く違う顔を見せるんですよ。空気感が違うというか。高校のブラスバンドや全校生徒が応援に来てくれるし、本当にいろんな感情がわき上がってくる。3年間、一緒に頑張ってきた仲間とその場でプレーできる喜びは、本当に大きかったですね。そういう濃密な3年間を一緒に過ごした仲間だからこそ、社長の理念にも共感しました。
―――当時は、練習も朝早かったりしたんじゃないですか。
松井:練習は朝早かったですね。実は、社長とは一緒の電車で通っていたんですけど。彼は本当に一番遠いところから来ていて、一番早い5時台の電車に乗っていたんじゃないですかね。私は6時ぐらいの電車だったんですけど…、お恥ずかしい話ですが、挫折しまして。始発電車が早すぎると思って、挫折して2本目に変えたんです。でも彼は3年間、始発に乗り続けたんです。根性ありますよね、やっぱり。私は、根性ないんです。